「人手が足りず、新規の注文を断らざるを得ない」「特定の工程がボトルネックになって、生産ライン全体が停滞している」——こうした悩みを抱える中小製造業は少なくありません。

今回は、当社が支援させていただいた福岡県内の発泡プラスチック加工業者様の事例をご紹介します。中小企業省力化投資補助金(一般型)を活用し、手作業に依存していた切断工程を自動化することで、1日あたり5.8時間の工数削減と生産性の大幅な向上を計画した事例です。

ご相談の背景:3つの経営課題が絡み合う「悪循環」

ご相談をいただいた企業様は、設立から30年以上の歴史を持つ、売上規模1億円弱の発泡プラスチック製品の加工業者様です。建築業界や造形業界を中心に、市販品では対応できない特殊形状の製品を製造・販売されています。九州一円に自社配送網を持ち、短納期対応を強みとされていました。

しかし、経営診断を通じてヒアリングを進める中で、以下の3つの課題が相互に作用し、深刻な悪循環を引き起こしていることが明らかになりました。

課題1:ボトルネック工程による慢性的な生産性低下

製品の初期切断工程で、熱線を用いた切断作業と段取り替えがすべて手作業で行われていました。製品の形状やサイズが変わるたびに、熟練作業員でも数時間、場合によっては半日以上の段取り替えが必要でした。この工程の停滞が後工程での手待ちを発生させ、生産リードタイム全体を長期化させていました。

課題2:人材不足と従業員の高齢化

従業員3名と役員2名の計5名体制で、既存顧客の対応に忙殺されており、月あたり約5件の新規案件の要望に応えることができない状態でした。さらに、従業員の平均年齢は47歳と高齢化が進み、身体的な負担の大きい手作業の継続にも限界が見えていました。

課題3:売上・利益の減少傾向

売上高は直近3年で約14%減少。原材料であるポリスチレン樹脂の価格高騰(2020年比で約83%上昇)の影響も受け、営業利益も大幅に低下していました。

ボトルネック工程による生産性低下 → 新規案件に対応できない → 売上減少 → 人材への投資ができない → 生産性がさらに低下する——この「悪循環」の根幹を断ち切ることが、最も重要な経営課題でした。

支援内容:SWOT分析から事業計画策定まで

当社では、経営診断のプロセスに沿って以下の支援を行いました。

1. 現状分析(SWOT分析)

まず、企業様の内部環境と外部環境を体系的に整理しました。

  • 強み:複雑な特殊形状に対応できる高い技術力と一貫生産体制、30年以上の地域密着による信頼関係、自社配送網による短納期対応
  • 弱み:切断工程の手作業によるボトルネック、人材不足と高齢化、売上・利益の減少傾向
  • 機会:発泡スチロール市場の成長(国内市場は2030年まで年3.5%成長見込み)、環境配慮型住宅向け断熱材の需要増加、顧客ニーズの多様化
  • 脅威:原油価格高騰による原材料費の上昇、製造業のDX化による競争激化

2. 経営課題の特定とクロスSWOT分析

SWOT分析の結果をクロスSWOT分析に展開し、「強み × 機会」の戦略としてボトルネック工程の機械化・自動化を最優先課題と位置づけました。これにより、既存の技術力と顧客基盤を活かしながら、成長市場への対応力を強化する戦略です。

3. 省力化投資の具体的計画

導入設備として、自動線張りスライスカット機を選定しました。この装置は、タッチパネル操作で熱線の間隔をセンサーが自動調整し、ベルトコンベアで搬送される材料を連続的にスライスする機構です。さらに、メーカーと連携して標準仕様の片方向搬送を往復搬送に改造するオーダーメイドを行い、追加の工数削減を実現しました。

4. 工程分析によるビフォーアフターの定量化

単純工程分析により、導入前後の業務プロセスを定量的に比較しました。

  • 段取り替え時間:240分(手動) → 10分(自動)
  • 切断処理時間:240分(手動) → 120分(自動)
  • 1日あたりの削減時間:5.8時間

5. 事業計画・財務計画の策定

補助金申請に必要な事業計画書として、以下の内容を策定しました。

  • 省力化投資による直接効果と事業全体への波及効果の整理
  • 新たな付加価値の創出計画(コンクリート構造物向け製品、ZEB/ZEH住宅向け断熱材の市場開拓)
  • 3年間の数値計画(売上高、付加価値額、労働生産性、給与支給総額の成長シナリオ)
  • 資金調達計画(金融機関との事前相談・融資内諾の取得支援)

期待される効果

本事業計画による期待効果は、大きく「直接効果」と「波及効果」に分けられます。

直接効果

  • 1日5.8時間の作業時間削減(段取り替え+切断処理の自動化)
  • 後工程の手待ち解消による生産リードタイムの短縮
  • デジタル制御による歩留まり向上(作業ミスの減少、品質安定化、廃棄コスト削減)
  • タッチパネル操作により新任者でも即戦力化が可能

事業全体への波及効果

  • 労働生産性:3年間で約65%向上を計画
  • 売上高:年10%の成長を計画し、3年目にピーク時水準への回復を目指す
  • 新規案件の獲得:これまで対応できなかった月5件の新規案件に対応可能に
  • 新市場の開拓:建設業界向け大量生産品やZEB/ZEH住宅向け断熱材への展開
  • 賃上げ:給与支給総額を年4.0%の成長率で引き上げ(福岡県平均3.4%を上回る水準)

支援のポイント:採択につながる事業計画とは

省力化投資補助金(一般型)の審査では、単に「設備を入れたい」というだけでは不十分です。本事例で特に重視したポイントは以下の3点です。

  1. 経営課題と省力化投資の論理的な接続:SWOT分析・クロスSWOT分析を通じて、なぜこの設備投資が経営課題の解決に直結するのかを明確にストーリー化しました。
  2. 定量的なビフォーアフター:工程分析により、導入前後の作業時間を具体的な数値で示し、削減効果の根拠を客観的に提示しました。
  3. 省力化の先にある成長戦略:設備導入による省力化だけでなく、捻出された経営資源を活用した新市場開拓・付加価値創出の展望まで描くことで、事業の持続的成長を審査員に伝えました。
省力化投資補助金のご相談を承っております

ひなたコンサルティングは認定経営革新等支援機関として、省力化投資補助金の申請支援を行っております。経営診断からSWOT分析、事業計画書の策定、金融機関との調整まで一貫してサポートいたします。「自社のどの工程に省力化投資が有効なのかわからない」「一般型とカタログ注文型のどちらが適しているか判断できない」といった段階からのご相談も歓迎です。

まとめ

本事例は、製造業における「ボトルネック工程の自動化」という省力化投資の典型的な成功パターンです。重要なのは、設備投資を単なるコスト削減の手段としてではなく、経営課題の解決と将来の成長戦略の起点として位置づけることです。

中小企業省力化投資補助金は、このような取り組みを力強く後押しする制度です。人手不足やボトルネック工程にお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。